右方の窓に見えるは半月、左方に見えるは漆黒の闇。
辺りは光沢を放つビロード、ベルベットのカーテン、絨毯。今宵眠る場所はシルクのシーツの寝台。
ペット
この国の言葉で言うならば愛玩動物。
俺は文字通り愛玩動物。
見えない鎖で繋がれて、野良になるのは許されず。
愛玩動物らしく尻尾を振り、主人にすり寄り餌にありつく。
髪と同じ色の首輪と腕輪は帰るところを示す。
帰る場所は、ビロードで彩った闇。
闇の名は
高杉晋助
俺は夜の街を走る。
目の前に見えてきた眠らない街。
色鮮やかなネオンが煌めき、その光に照らされて歩く人々の顔は輝きを放っていた。
知らなかった外の世界。
外の様子を知るには、TV、あるいは、あのビロードの部屋の窓からの情報しかなかった。
この街の明かりは少々刺激が強すぎて、下品なようにも思えるが、外の世界で生きている、この人たちは輝いて見えた。
俺の髪は闇には目立つ色だったが、この街では然程目立たない。
着る物もそこそこに、いつも身に纏っていた服、裏口に置いてあったサンダルを引っかけて飛び出した。
しかしその格好は逆にこの街では目立っていたようで。
「ねぇ、君、俺の店来ない?」
肩を叩かれ若い茶髪の男がにこっと笑って話しかけてきた。
断れば、しつこく肩を抱き寄せ顔を近づけ話しかけてくる。
「君、銀髪なの?いいね似合ってるよ。それも売りにさぁ、どう?俺んとこ来ない?絶対君輝くって〜」
「い、いや、いいですから、離して」
「ねぇ、君名前は?あ、よく見たら目、紅いじゃん。カラコン?肌も白いんだ〜。
君、人気出るかもよ?一晩ですごい稼げちゃうよ?君、家出でもしてきたんじゃない?」
「・・・」
「あーやっぱり。だったら住む場所もお金もないでしょ。だったらいいじゃん。
お金もたくさん稼げて住む場所だってあるんだよ?ほら、とりあえず来てみればいいからさぁ〜」
「いや、ちょ、離して、」
男は俺の肩を抱いていた手を腰に回し、ぐいぐいと建物の入り口の階段へと引き込もうとする。
「おい、何してんだ」
背後から低い声が響いた。
俺から、茶髪の手を解いて、俺の腕を掴み引き寄せた。
俺は、手を引いた男の顔を見ようと振り返ると、そこに広がるのは闇。
「ひっ」
身を強張らせる。
「おい、嫌がってんだろうが。いくらここが無法地帯のようでもなァ、刑法ってなぁ通るんだよ。
強要未遂でしょっぴいてもいいんだぜェ?」
その闇を纏った男は内ポケットから出した手帳を、茶髪の男に見せると、茶髪は竦み上がり震えた。
その手帳は警察手帳。なんかドラマとかで見たことある・・・。
この闇の男は、俺の恐れていた人物じゃなかった。ほっと息をつく。
「お、俺、別にその子に店を見学してもらいたくて、ただそれだけだし!!」
「おい、お前、何か脅迫はされてねぇな?」
「あ、は、はい」
「だったらてめぇは行け。次見つけたらしょっ引くからな。二度とすんじゃねェぞ」
「はははははい!!!君、ごめんね!?」
茶髪は俺に一言謝ってから急いで逃げて行った。
闇を纏った男はこちらを向いた。
闇を纏っているように見えたのは着ている服が真っ黒だったからだと、ネオンに照らされて気づいた。
瞳孔が開いた目で、睨むようにこちらを見る。口に咥えた煙草に火をつけ煙を吐き出す。
「お前、大丈夫か?こんな街じゃ何が起こるかわかったもんじゃねぇ。気をつけろ」
「は、はい・・・」
「この街は初めてか」
「はい・・・」
「自分で自分を守れねェようならここには来るんじゃねぇぞ。さっきの奴はまだマシだったがな、
集団であらゆる手を使って引き込もうとする奴もいるし、クスリを勧めてくる奴だっている。好奇心だけでここには来るな」
「すみません・・・。こんな街だなんて知らなくて、ただ、走ってたらここに行きついたから・・・」
「・・・・・・お前、家出でもしてきたのか」
「家出っていうか、逃げてきたっていうか」
「あぁ?どういうことだ。お前やばい組織とかと絡んでたのか」
「そういうわけじゃなくて、その、俺を飼ってた人から、逃げてきた」
「飼う?・・・・・・じゃあお前、今家はないのか」
「あ、はい」
「親とか、身寄りは」
「そんなの途うの昔にいなくなってる」
「金は」
「ない、です」
「歳は」
「さぁ・・・?24、5くらい・・・?」
男ははぁーと溜息と共に煙草の煙を吐き出し、俺とまた向き合って
「お前、名前は」
「坂田銀時」
「そうか。俺は土方だ。土方十四朗」
「ひじかた・・・」
「身寄りも家も金もねぇなら、俺ん所に来るか?メシと寝床ぐれぇは提供してやる」
「え」
「俺は警察だ。一般市民を守るのが仕事なんだよ」
「は、はい!!」
そして俺は、記憶のあの男とは違う闇の男の元へ行く。