「好きだ」
突然の告白。
相手は男。
そして、いつも喧嘩ばかりしていた、むしろ俺のことは嫌いだろうと思っていた男。
武装警察真選組副長土方十四郎
瞳孔の開いた目をさらに瞳孔開いて、眉間に寄せた皺を一層深くして、一言。
びっくりした。突然街中で言われたもんだから、
そりゃあもう、新喜劇のオチのようにキレイにすってーんと転ぶところだった。
耳を疑った。あれ?耳鼻科行った方がいいかな。脳外科?精神科医?幻聴が聞こえるなんて。
「何考えてやがる」
「いや、俺、ちょっと病院行ってくるわ。なんか幻聴が聞こえるようで」
「幻聴じゃねぇ。本当に言った」
「えぇぇ、でもそんな眉間に皺寄せて瞳孔開かせて言う言葉じゃなくね?
そんな顔だったら殺すぞとか口から出てきそうだもん」
「元々の顔だ仕方ねェ」
「女の子怖がって逃げちゃうよ?」
「女にはモテる方だ。不自由してねェ」
「ならなおさら。どうして俺なんか」
「さぁな、好きになったもんは仕方ねぇだろ」
「ままままぁまぁ、冗談はここまでにしといてさ、お仕事行きなよ。
沖田くんにバズーカでぶっ飛ばされるよ?」
そういって俺は土方を軽くあしらって背を向けその場を去った。
だがこの男は、何故だろう。
「よぉ」
どうして次の日、万事屋の今のソファーに堂々と座っているのだろう。
万事屋のテーブルにはケーキの箱、万事屋に新八と神楽はいない。
土方と二人きり。
この男、なにが目的だ。
「好きだって言っただろ」
「いや、まだ何も言ってないですけど。つぅか、何?まだ続いてたの?その冗談」
「冗談じゃねぇ」
「いやいや、冗談だろ?だって俺達今まで喧嘩ばっかしてきて仲悪かったじゃない。
そりゃあ世話になったり協力してやったりはしたけどよ、冗談言って笑わすぐらい仲良くなかっただろ?
それにお前冗談言うタイプじゃないじゃん」
「だから冗談じゃないと言ってる」
「好きだ」
土方の考えてることがわからない。
土方はそれから次の日も次の日もケーキを片手に万事屋にやってきては俺に告白してきた。
俺のどこがいいんだか。
近藤のようなうざさはが、しつこいぐらいに求愛して来るのは同じ。
ストーカーのように何処までも追いかけてくるわけではないが、毎日毎日疲れるほど告白して来る。
ただただ好きだ、付き合えということだけを繰り返す。
夜来て、飲みに連れて行ってもらい、奢ってもらった。
酒がほんのり回ると、眉間に皺をよせ笑顔に程遠い顔をしている土方も、
少しやわらかい表情になり、俺に向けて笑みなんかも浮かべた。
なんとなく、前から土方のことは俺は嫌いではなかった。
街中で会うとすぐに始める口喧嘩。あれを俺は気に入っていた。
偶に、万事屋の前を巡回で通り過ぎる土方。それを窓から眺めて、あぁまた瞳孔開いちゃって、
とぼんやり思い、こっち見ないかな、なんて乙女なことを考えて。
だから告白されたのは嬉しかったが、嬉しくもなかった。
は?訳わかんないと思っただろう。
だって考えてもみろよ。アイツは引く手数多、選り取り見取りの、モテ男だぜ?
色街では土方を待っている遊女さえいるらしい。
そんな女に困ることのない男が何故、こんな万事屋なんてうさんくさい仕事して、死んだ目をした、
くるくる天然パーマの、男に、好きだなんて告白する。
同じ男だぜ?背丈も変わらない、どう見たって男にしか見れない俺を。
そりゃあ、こんな珍しい髪色の俺だから、戦争中とかは男の相手をしたこともある。
でもそれはまだ若くてぴちぴちの時だったし?
周りに女なんていやしねぇからただの性欲処理の為にヤったことはある。
でも、アイツは女には困んねぇだろ。ムカつくけど。
だからどうして俺に。
だから冗談じゃないかって思ってた。
でも毎日毎日飽きもせず告白し続ける土方。
そんなことが一週間繰り返されて、さすがの銀さんも
絆されるに決まってる。
そんなこんなで俺達は付き合うことになった。
土方は意外と優しかった。いや、女にはこうやってやっているんだろう。女を扱うように大切にされた。
万事屋にケーキ片手にやってきて、少し話をするか、或いは一緒に飲みに行って奢ってもらって帰るか、
甘味屋に連れて行ってもらうこともある。
恋人同士というか、告白してきたあの一週間とあまり変わっていない気がするが。
しかし進展はした。
飲み屋に行った帰り、近くのホテルに入って、致しました。
俺が下。土方とは背丈も変わらないし、
まぁ背の高い奴が上とかガタイのいい奴が上とかそういう決まりはねぇけどさ、
土方が下だっていいと思うわけよ。でも俺の方が下の経験もあったし、
土方はギラギラした目で見て俺に覆いかぶさってきたから下になるしかあるめぇよ。
あれから飲み屋の帰りに宿屋になだれ込むこと数回、未だキスはしていない。
身体はやるけどキスはしない?ってどっかの売女かよ。
せっかくその、付き合うように、恋人同士になったんだし?キスしたってよくね?
身体は繋げてんのによぉ。
土方が次の日は非番だと言うので、万事屋に泊まっていくことになった。
神楽は新八の家に預けて、夕飯の準備をして、酒の肴も用意して、
土方が買ってきた酒を飲んで布団へなだれ込み。
酒の勢いもあって、俺は恥ずかしいほど乙女に乙女なことを口走っていた。
「なぁ、なんでキスしてくんねェの?」
酒に酔っていたんだ。飲み過ぎてたんだ。じゃなきゃそんな恥ずかしいこと誰が言うかよ。
土方はそれを聞いて、なんかはっとしたような顔をして、
すぐにいつものクールな表情に戻って俺の顎に手をかけ唇を合わしてきた。
ちゅっちゅっとしてからそろりと舌が入ってきて、歯列を辿り舌を絡ませてきた。
今までしてこなかったのが嘘のように情熱的な濃厚なキスだった。
唇が離れてほやん、となってぼぉーっとしてたら土方に笑われた。
「お前慣れてねぇのか?」
違う。これは土方とだからだ。
俺は酒にも、キスにも酔っていたらしい。だからこんな乙女なことを口走る。
「お前だから・・・」
土方は、こんな乙女なことを言った俺を笑うか、それとも赤くなるか、
ちらっと土方の顔を見ると、そこには予想していなかった表情があった。
どうしてそんな傷ついたような表情(かお)するんだ。
それから別に変わったことはなく、土方と甘味屋デートしたり、飲み屋デートしたり、と今まで通り。
ただ、万事屋に来た時や宿屋に言った時はキスをするようになった。
身体よりキスが後って、土方の基準ていうか恋愛観っていうかよくわかんねぇ・・・。
そして俺は浮かれていた。
また今晩土方が泊まりに来る。
散歩がてら今日の夕飯の内容を考え買い物に行く。
スキップするような勢いで大江戸マートに向かう。
本当に浮かれていた。
今日はいつも通らないような道とか通ってみようかななんて思ってしまった。
入り込んだ路地を通ってみたら路地の終わりあたりにパトカー。
パトカーの傍には一服する恋人、土方がいた。
あ、ラッキー、と土方に近づこうとしたら、土方の傍らにはドSの星の王子様がいた。
じゃあ普通に声かけようと近づいたら二人の会話が聞こえてしまった。
「賭けは土方さんの勝ちですねぃ」
へぇ、賭けかぁ。二人とも仲いいなぁ。
「一週間で旦那を落とせるか」
は・・・?
「本当に旦那が落ちると思いやせんでしたけど、土方さん、どんな手使ったんですかぃ」
「どうでもいいだろ。ったくちくしょうお前と賭けなんてしなきゃよかった。
どうして俺がアイツに告白なんざしなきゃならねぇんだ」
「でも土方さんもすげぇや。いやだいやだ言っときながらやたら真剣に口説いてたじゃねェですか。
そんなに負けるのが嫌だったんですかぃ?」
「てめぇに賭けで負けたらどうなるか分かったもんじゃねェ」
「で、土方さん、これからどうするんですかぃ?旦那とそのまま付き合うつもりで?」
「あぁ、それな・・・」
「あぁ、そういうこと」
俺が土方達の前に出て行ったら二人は驚いた顔をしていた。
そりゃそうだろう。
今まさに、騙してた俺が出てきたんだから。
「やっぱり冗談だったんだ」
その後、買い物する気もなく、俺は踵を返した。
追いかけてきた土方を適当に払って俺は万事屋に帰った。