尾行調査
俺は副長のあの顔を初めて見た気がした。
俺は武装警察真選組監察の山崎退。
地味なオーラと俊敏さを利用して潜入捜査などをしている。
今日も俺は仕事だ。
今日の仕事は沖田隊長から頼まれた仕事。
あの人から直々に頼まれる仕事なんて怪しくて仕方なかったが、聞いてみるとそうでもない。
ただ、ある人を尾行(つ)け、その人の恋人を探れということだった。
なんだ、簡単だ、攘夷浪士に潜入しに行くだのの仕事よりも遥かに楽だ。
そのある人が、真選組副長土方十四朗じゃなければ。
沖田隊長からの命令理由はこうだ。
最近副長は、非番の日、あるいは早番の日は、
必ずどこかへ出掛け、朝になって帰ってくるのだ。
それは俺も気が付いていた。
飲みに行っているか、遊郭にでも行って遊んでいるのかと思った。
沖田隊長もそう思っていたらしい。
しかし、非番の日は、たまに早い時間から出掛けることもあるのだ。
飲み屋も遊郭もこんな朝からやってるわけがない。
それに、あの見目ゆえ、女には苦労しないあの人が、こう、毎夜のように入れ込むはずがない。
と沖田隊長は言う。
確かに、あの人はそんなに人に執着する人ではない。
これは、恋人ができた、と。
しかし、ミツバ殿をいつ死ぬかわからない身だからと振ったあの人が、誰かと付き合うだろうか?
相手は、そんな身でも付き合いたいと思う人間。
強い人間だ
と沖田隊長は推理した。
副長よりも強そうな人と言ったら、姐さんか?
いや、局長の好いている人と付き合うなんてことは副長はしない。
万事屋のチャイナ?いやいや、副長がロリコンだなんて考えたくない。
他に思いつく人が見当たらないが、
もしかしたら副長は俺たちの知らない人と付き合っているのかもしれない。
とりあえず、調査するしかわからない。
それでは山崎退、いきまーす!!
今日は副長は早番だ。
仕事が終わった後、どこかに電話をしていた。
隠れて会話を聞いていたが、相手の名は出てこなかった。
ただ、副長が俺らには絶対発さないであろう甘い声を出していたのだけはわかった。
副長は、電話を切ると、着流しに着替え、屯所を出発した。
宵も深まった頃だ。
俺は、気づかれないように慎重に尾行を続けた。
相手は、真選組副長土方十四朗。
気配など読まれ、尾行されていることに気付かれてしまうかもしれなかった。
しかし、恋人に会えるからなのか、顔はいつもの仏頂面だが、心なしか、浮足立っていた。
だからであろう。俺の気配に気付かれなかったのは。
副長は、ふと、店に立ち寄った。
そこで、ケーキを二、三個買い、出て行った。
次にコンビニに寄り、酒を買っていった。
荷物をぶら下げ、どんどん歩いて行く。
向かっている先は、俺も見知った場所だった。
そして着いた先に俺は驚いた。
そこには、『万事屋銀ちゃん』と書かれた看板があった。
副長が呼び鈴を押して出てきた人物は、ケーキの箱を受け取ると、
副長に抱きしめられた。
うつむいた相手の頬に手を添え、顔を近づけキスをした。
そんな甘いやり取りに、恥ずかしくなって目を逸らしてしまったが、
副長と、その相手のいつもの表情とは違う、見たことのない顔を、思わず凝視してしまう。
相手は、俺もよく知っている、万事屋の主人、坂田銀時だった。
いつもの死んだような眼が、恥ずかしさと嬉しさが入り交ざった綺麗な瞳に変わっていた。
副長は、いつもの鬼の形相ではなく、優しい、相手を慈しむような顔をしていた。
あぁ、二人はとても思い合っているんだな、と、あの表情と行動でわかってしまった。
確かに万事屋の旦那は強い。
お互い支え合って、男と女ではできない信頼関係がそこにはあるんだろう、そう思った。
普段いがみ合っているから気付かなかったけど、結構この二人は、お似合いなんじゃないか?
旦那が奥へ消えていく。
副長は中に入り、玄関の戸を閉めようと後ろを振り返ったとき、副長は俺を見つめた。
そしてフッと笑うと、帰れ、と口パクで言われ、急いで立ち去った。
俺が後を尾行けているのはバレていた。
さて、沖田隊長にどう説明しよう。
バラすと俺は副長に殺されるだろうか。
だが、わかりませんでしたが通用するお人じゃない。
何かと、万事屋の旦那が気に入っている沖田隊長にこのことを話すと、多分邪魔するだろうな。
さて、どうしよう。
正直に言おうか。
副長の恋人は、副長にお似合いの方で、
したたかで、魂の綺麗な素敵なお方です。
山崎退、任務完了。
