ガラス玉ひとつ

卒業式
春の暖かな風が吹き荒れ、天気は快晴。


制服の胸のところに、造花が飾られ、先輩は前を向いて颯爽と入場してきた。 いつもの眠たそうな死んだような目は少し輝いていた。
俺は先輩をずっと、目で追った。席に着くまで、先輩だけはしっかりと見つめた。


卒業生の名が担任によって読み上げられる。

坂田 銀時

その名も聞き逃さないように耳を凝らした。


来賓祝辞や祝電披露はぶっちゃけどうだっていい。 校長は「ところで、〜という人がいます。〜」なんて学校も卒業生も関係ないような人持ちだしてくるわ、 来賓なんて学校も卒業生のことも全く知らない癖にだらだら中身がありそうでないような祝辞を読んでいる。 つまらない。
だからそんな話はシャットダウンして、俺は先輩に出会ってからのこの2年間を思い返していた。



俺が入学した当初は別に顔なんて知らなかった。名前だって知らなかった。
でもやはり先輩の話って言うのは新入生に限らず後輩たちの中では話題に上がるもので。

2年に白い人がいる

白い人?肌がってことか?別に女子なら普通だろ?え?男?男だって肌が白い奴だっているだろう。
あ、俺も見た!ホント白かったよ、びっくりした!という会話が所々で聞こえてくる。 女子の間でも白い男の話題が聞こえてきた。
男だし、それに俺はといえば逆に先輩方の中で話題に上がっていたらしく、 女子の先輩がよく俺のクラスに来てはキャーキャー言ってた、 のでその白い男にはたいして興味はなかったが、でもそんなに白い白い連呼してるから、 どれだけ珍しい容姿をしているのだろうと、心の隅で気になってはいた。


それが5月の始め、木々が若々しい青い葉を茂らせ始めた頃、そんな木の下でその白い男を見た。
その男は眠っていて、黒い学ランをかけて口を半開きにして昼寝していた。
その男は、白かった。
噂通り、いや、それ以上白かった。まぁ、どこがどう白いのか知らなかったからだが、見ればすぐにわかる。本当に白い。白いというか銀色。 木々の葉の間から注ぐ日の光が反射していた。

その銀色の髪の毛に。

銀色なのはそこだけじゃない。睫毛も眉も、透き通るような銀色だ。肌も白い。透き通るような白さだ。 きめ細かな肌で、男なのにこれだけ肌がキレイなら女は嫉妬するだろうな、とぼんやり思った。
日本人離れした髪色と肌色ではあるが顔立ちは日本人で・・・と、そう、俺はこんな風に実況できるほどにまじまじと見入ってしまっていた。
そしたら突然ばちり、と白い顔に並ぶ、銀色の睫毛で縁取られた目が開かれた。びくっとなって俺は少し後ずさる。

開かれた瞳にも驚いた。
紅い。紅いビー玉のような瞳だった。


「誰ですかコノヤロー。俺の睡眠を邪魔する奴はよー。ったくそんな近くでじろじろ寝顔見るから気になって目ェ覚めちまったじゃねぇか。 俺の睡眠時間返せコノヤロー」


外国人というか、異国の、異世界の者のような不思議で綺麗な容姿をしているのに、その紅い口から出てきたのはおよそ似つかないぞんざいな台詞だった。




それが第一印象。
彼も俺のことは知っていたらしく、

「女子がぎゃーぎゃー騒いでたなぁ〜1年にイケメンがいるぅ〜って言ってよ〜なんだっけ多串くんだっけ?」
「土方です!!」
「あぁ、悪ィ悪ィ、多串くん」
「だから土方だって言ってんだろうが!!」

年上の先輩に対してタメ口で切れてしまったが、先輩・・・坂田銀時はたいして気にしている様子でもなく、はははと笑っていた。 木漏れ日が銀髪に反射しているのが綺麗だった。


先輩とはそれからなんだか仲良くなって、部活も一緒で、昼も週に2、3度一緒に取るようになった。
俺の高校初めての夏が過ぎ、夏休みもたまに遊んだ。といっても部活ばかりで、部活後に一緒に出かけたりとかだが。そして初めての文化祭も終わり、 生徒会の引き継ぎがあって先輩は生徒会長になった。
副会長は、俺の幼馴染で一つ上の近藤さんが求愛している志村妙だ。なんだか会長が副会長に尻に敷かれている面白い生徒会になった。
会長が先輩になって、俺は急いで生徒会に入った。近藤さんは風紀委員長になった。先輩の友達でやたら先輩にひっついているあの3人もメンバーになった。
先輩と俺と同じ部活の坂本は文化祭実行委員長だし、やたら先輩の世話を焼きたがる、これもまた同じ部活の桂は議長で、 絶対先輩を狙っているムカつく笑みを浮かべる高杉は会計だ。
生徒会の仕事はけして楽ではなく、遅くまで仕事はあったが、楽しかった。
先輩と一緒に過ごせた時間も、先輩と一緒にできた文化祭も、どれもみな楽しかった。


文化祭が終わって引き継ぎがあって、先輩から俺は会長を託された。

その先輩は今日、卒業する。



送辞を読むのは今度副会長になった猿飛だ。先輩のことが大好きだった猿飛は、途中から泣き始めた。 終始先輩のことを見つめていた。いつもいつも先輩にぶっ叩かれたいなんて言うドMの変態だったが可愛いところもあるんだと驚いた。 そしてこんな奴が副か・・・と少し来年度を心配した。


そして先輩の答辞。
先輩は泣くことも詰まることもなく、すらすらと、読み上げていった。周りの卒業生の方からすすり泣く声が聞こえた。 在校生の中でも目頭を押さえている人もいた。
俺は泣かなかった。




式が終わって、HRが終わって、卒業生が校舎の外に出てきてからわらわらと後輩たちが卒業生にたかる。
騒ぎが済むまで、先輩が校門を越えるまで、俺は離れたところで待っていた。そして先輩を捕まえた。
先輩は、学ランだけでなく中に着ているYシャツのボタンまで引きちぎられていて、手には大きな花束を抱えていた。


「土方じゃん。お前ここにいたの。校舎出てから生徒会の奴らにもみくちゃにされて、 同じクラスの奴とか部活の奴らとかにもみくちゃにされてボタン引きちぎられてよ〜。でもそん中に土方いないから帰っちゃったのかな〜って思ったよ」
「ゆっくり話したかったんで」


先輩のボタン引きちぎって行った奴らはたぶん女子じゃないだろう。いや、中には猿飛がいるかもしれないが、先輩は男にモテていたから。


「先輩、どこの大学行くんスか」
「まだ合格発表されてないけど、・・・大」
「へぇ・・・レベル高いっすね・・・。しかもココから離れるんスね」
「結構頑張ったぜ〜?でもまた、辰馬もヅラも高杉も一緒なんだぜ?どこまで追いかけてくる気なんだろうなアイツら〜ははは」
「・・・・・・追いかけていきます」
「え?お前が?おう、お前もいけんじゃね?また会えるといいな〜」
「絶対行きます。・・・そしたら先輩を奪います」
「?・・・はい」


先輩はにっこり微笑んだ。
どうせ俺の言った意味なんてわかってないんだろう。
・・・・・・いい。こんだけ鈍いんだ。たぶんあの3人だって苦労するだろう。
俺は一年後、先輩を奪いに行く。



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